任意売却と自己破産のどちらを先にやるべきか

住宅ローンを払えずに自己破産をする場合、自己破産と並行して任意売却をすることがよくあります。その場合、自己破産の申立てと任意売却のどちらを先に行うかで、破産手続きの内容や破産にかかる費用が違ってくることがあります。

この点、どちらを先に行うべきかはケースによって異なりますので一概に言う事は出来ませんが、可能であるならば破産よりも先に任意売却を済ませた方が一般的にはメリットが大きいと言えます

ただし、破産前に任意売却を行う際には、一定の注意を払わないと債権者へ損害を与えてしまうなどの問題が生じることがあります。そこで、この記事では、破産に先立って任意売却を行う事のメリットとその際の注意点について解説して行きたいと思います。

破産よりも先に任意売却をした方が良い理由

住宅ローンの他にも借入がある場合において、任意売却と自己破産を併せて行う場合、どちらを先に行うべきかという点が問題になります。この点、先に任意売却を行った方が一般的にはメリットが大きいと言えます。以下、その理由について説明して行きます。

  • 管財人費用が不要になる
  • 破産財団への組入金が不要になる
  • 破産費用を捻出できる場合がある
  • 時間が経つと競売されるリスクが上がる

管財人費用が不要になる

破産する際に債務者が一定額以上の財産を保有していると、その破産事件は管財事件として扱われます。

破産というのは、債務者の財産を処分してお金に換えて債権者に配当するという内容の手続きです。したがって、債務者に一定額以上の財産があれば、その財産を適切に管理・処分して債権者に平等に配当する必要があります。そして、その役割を担うのが破産管財人であり、破産管財人は裁判所によって選任されることになっています。破産事件のうち、破産管財人が選任される事件のことを管財事件と言います

これに対して、破産者に財産が無いことが明らかな場合等、破産管財人が選任されない破産事件のことを同時廃止事件と言います。

この点、同時廃止事件であれば、破産管財人は選任されないので、通常の破産手続きにかかる費用を支払えばOKなのですが、管財事件の場合は、破産管財人に対する報酬を払わなければならないので、通常の破産手続きにかかる費用に加えて管財人費用がかかることになります

具体的には、通常の破産手続きにかかる費用だけであれば、裁判所に払う手数料、官報広告費、切手代などで金額は2万円程度で済みますが、管財事件の場合はこれに加えて管財人費用が必要となり、その金額は20万円程度かかります(東京地裁や千葉地裁などで少額管財とされた場合にかかる金額で、弁護士による申立てが条件となっている)。なお、ここで言う破産手続きにかかる費用には、弁護士費用は含まれていませんので、弁護士費用は別に必要となります。

ところで、債務者が不動産を所有している場合、その破産事件は原則として管財事件として扱われますが、必ず管財事件になると言う訳ではありません。すなわち、明らかにオーバーローンである場合は、財産としての価値が無いと評価されて同時廃止事件として処理されることがあります。オーバーローンとは、担保を持つ債権者の貸付残高が不動産の価値を上回る状態のことです(住宅ローン残高が不動産の価値を上回っているようなケース)。つまり、競売にかけられれば、売却代金の全額が担保権者により回収されるから、その不動産には財産としての価値がないと評価されるのです。この点、東京地裁や千葉地裁の場合は、不動産価値の1.5倍以上の貸付残高(担保権付)がある場合には、明らかなオーバーローンとして扱っています。

したがって、明らかにオーバーローンである場合には、そもそも同時廃止事件として扱われますので(他に管財事件とすべき事情のない事が前提)、いつ任意売却をしたとしても管財人費用の問題は生じません。これに対して、明らかにオーバーローンであるとまで言えない場合は、先に任意売却をしておき不動産を所有していない状態にすれば、管財事件を回避できる事があり、そうすれば管財人費用も負担しなくて済みます

もっとも、破産前に任意売却をしたとしても、売却代金が手元に残るケースだとそれも「財産」となるため、そのままでは管財事件となり得ますが、破産費用に充てるなどして手元から無くすことで、同時廃止事件とされる可能性が高くなります。この場合の、手元に残る売却代金の扱いには細心の注意が必要なので、詳しくはあとで解説します。

破産財団への組入金が不要になる

管財事件になった場合、任意売却による売却代金の一部を破産財団に組み入れる(破産管財人に支払う)事が慣例となっています。このため、明らかにオーバーローンであるとまで言えない場合には、先に任意売却をしておき同時廃止事件とすることができれば、組入金の問題を回避できることになります。

ところで、破産管財人が選任されると、債務者は自ら財産を処分することが出来なくなり、破産管財人に処分権が移ります。つまり、破産管財人が選任された場合の任意売却では、破産管財人が売買契約を行う事になります。そのため、任意売却に協力してくれた破産管財人に対する謝礼的な意味で、売却代金の一部を破産財団に組み入れるということが慣例となっているのです。組入金の額に決まりはありませんが、相場は売却価格の3~5%くらいです。しかし、任意売却の実務に理解のない破産管財人に当たると、法外な組入金を要求されることもあって、これに債権者が納得せずに任意売却が成立しないケースも見受けられます。

このように、売却代金の一部を破産管財人に支払うという事は、その分だけ住宅ローンの返済に回る金額が少なくなる事を意味します。そうすると、それを補えるだけの高値で売れないと債権者が任意売却を承諾しづらくなるため、任意売却が成功する可能性は下がる傾向にあります

破産費用を捻出できる場合がある

任意売却の結果次第では、売却代金から住宅ローンを全額支払ったとしても、手元にお金が残る場合がありますこの場合に手元に残ったお金を、破産申立てに係る費用(弁護士等への報酬、裁判所に納める予納金、実費)に充てる事が出来ます

自己破産をする場合、管財事件にならなかったとしても、弁護士費用だけでも20万円~30万円程度は最低必要になります。破産するような状況で、このお金を一括で用意する事は難しい場合も多いでしょう。多くの弁護士は費用の分割払いを認めてはくれますが、その場合は費用を払い終えてからの破産申立てとなるのが一般的なので、解決までにかなりの時間を要する事になります。

そのため、任意売却後に手元にお金が残る場合は、そのお金を破産費用に回すことで、破産費用を捻出する負担を無くすことができるのです。

もっとも、任意売却後に手元に残ったお金の扱いについては注意しなければなりません。このお金を破産費用等に充てる場合は何も問題ありませんが、お金を浪費してしまったり、知り合いなど特定の債権者だけに偏って返済してしまったりすると問題が生じます。このような場合、手元に財産が無くても管財事件とされてしまったり、下手をすると免責が下りないと言ったペナルティを受ける場合もあるため注意が必要です。

時間が経つと競売されるリスクが上がる

自己破産を弁護士等に依頼した場合、通常は破産申立てまでに3~6か月くらいはかかりますし、破産申立てから事件終了までにさらに数か月の期間を要します。

そうすると、破産手続きが終わってから任意売却をしようと思っていても、その前に競売されるリスクが高くなりますこの点、破産を申立てたとしても、抵当権等の担保権の実行は制限されないので、住宅ローンの滞納が一定期間続くと、抵当権が実行されて競売にかけられる事になります。

競売になると、裁判所の執行官によって室内の写真を撮影され、それが競売情報サイトなどに掲載されてしまいますし、入札を検討している不動産業者や投資家などが近隣に聞き込み調査を行うケースもあります。そうなるとプライバシーは期待できなくなり、精神的にも辛い状況が続くことになります。

したがって、このような競売のリスクを避けるためには、破産申立てより前の早い段階で任意売却をした方が良いと言えます。任意売却であれば、外観は通常の不動産売買と変わらないので、近隣に事情を知られることもありませんし、不動産業者等のサポートが受けられますので、辛いときに相談することも出来るのです。

破産に先立って任意売却をする場合の注意点

破産に先立って任意売却を行う場合には上記のようなメリットが存在しますが、以下のような点に注意しなければなりません。

  • 必ず管財事件を回避できる訳ではない
  • 任意売却の売却金額には注意が必要
  • 任意売却後に手元に残るお金の扱いには注意が必要

必ず管財事件を回避できる訳ではない

まず、同時廃止事件として処理されるには、以下の要件を満たす事が必要です。

  • 債務者に破産手続費用を支払う財産がないことが明らか
  • 免責不許可自由がないことが明らか

①の要件について言えば、破産手続費用すら支払えないことが明らかな場合には、債権者への配当などあり得ませんので、わざわざ管財人を選任するまでもありません。具体的には、現金は33万円、その他の財産は20万円の価値を超えるかどうかで判断されます(東京地裁や千葉地裁などの運用)。ちなみに、預貯金は「現金」ではなく「その他の財産」に含まれます。

ただし、他に財産があるかどうか調べる余地がある場合は、①の要件を満たしているとは言えず、管財事件とされる事があります。例えば、自営業者などの場合には取引が複雑である事も多く、取引先との関係を調べる必要もありますので、手元に目ぼしい財産が見当たらないとしても、基本的には管財事件とされる扱いになっています

②の要件については、借入原因がギャンブルや浪費であったり、財産隠しが疑われるようなケースの場合は、免責不許可事由に該当する可能性があるため、免責すべきかを判断するための調査が必要になります。このような場合は、その調査をさせるために破産管財人が選任されることがあります。

基本的には、上記の2つの基準によって管財事件と同時廃止事件の振り分けが行われていますが、振り分けの基準は裁判所ごとに異なりますし、ケースごとに微妙な判断が必要な場合も存在します。したがって、同時廃止事件とするために事前に任意売却をしたとしても、絶対に計算通りに行くと言う訳では無いので注意が必要です

任意売却の売却金額には注意が必要

破産申立前に任意売却をする場合、市場価格に見合った適正な金額で売却する事が必要です

この点、通常よりも安い金額で売却してしまうと、債務者の財産が減ってしまいますので、債権者を害する結果となってしまいます

例えば、3000万円の価値がある自宅に2500万円の抵当権が設定されていた場合について考えてみます。この場合、2500万円で売ってしまえば抵当権者に全額返済ができて競売は避けられますし、その後は自己破産するだけなので、あえて3000万円で売る必要は無いようにも思えます。しかし、これをやってしまうと抵当権者以外の債権者に配当できる財産が500万円分減る事になるため、債権者の利益を害することになってしまいます。

そうすると、このままではマズイため「配当のための現金を500万円用意しないと免責は下ろさない」と裁判所から言われてしまうことがあります。

したがって、このような事態を避ける為にも、適正な金額で売却することが必要となるのです。たまに親族などに安く売却してしまうケースが見受けられますが、そのようなことをしてはいけません。

そして、適正な金額で売却した事実を裁判所に対してきちんと証明できるようにしておく事も必要です。そのために一番良いのは、不動産鑑定士による鑑定書を作成する事ですが、費用もかかりますので、不動産業者が作成する査定書での代用が認められることが多いです。不動産業者の査定書を利用する場合は、いかに裁判所を納得させるかが重要になるため、周辺での取引事例など査定の根拠となる資料を併せて提出する方が良いと思います。

任意売却後に手元に残るお金の扱いには注意が必要

任意売却をすると、買主から売却代金の支払いを受ける事になります。

売却代金は、住宅ローンなどの担保権者への返済にまずは充てられます。破産法では担保権は別除権(破産手続きによらずに回収できる債権のこと)とされていますので、担保権者への返済は破産手続上は何も問題はありません

注意しなければならないのは、担保権者へ全額弁済しても売却代金の一部が余って、手元にお金が残るケースです。

この場合に、手元に残ったお金を浪費したり、知り合いなど特定の債権者への返済に充ててしまうと、管財事件にされてしまったり、最悪の場合は免責が下りない事もあり得るため注意が必要です

手元に残ったお金は、まずは弁護士費用など破産申立てにかかる費用に充てるようにします。それでもお金が残る場合は、債権者に対して債権額に応じて公平に弁済するようにします。債権者へ返済する際には、債権者間の平等を害さないように細心の注意を払う必要がありますので、破産を依頼した弁護士等と相談の上で慎重に行って下さい。

そのうえで、お金の使途を明確にするために領収証等を残しておき、裁判所に提出できるように準備しておく必要があります

まとめ

住宅ローンを抱えて自己破産をする場合、明らかなオーバーローン状態にないと管財事件として扱われる事になります。そして、管財事件として扱われると管財人費用が余計にかかりますし、管財人により任意売却がされると売却代金から破産財団への組入金を払わなければなりません。そのため、破産前に任意売却をしておき、管財事件となる事を避けることにはメリットがあります。ただし、任意売却による売却金額や任意売却後に手元に残る売却代金については、細心の注意を払わないと債権者の利益を害する結果となってしまい、そうなると最悪の場合は免責が認められないことがあります。そのため、破産前に任意売却を行う際には、破産手続きを依頼した弁護士等に相談しながら慎重に行う事が大切です。

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