税金や社会保険料の滞納がある場合の任意売却

税金等の滞納を避けるべき理由

多くの方にとって、不動産は大切な財産ですから、住宅ローンなど不動産を担保とした借入の返済は、他の支払いよりも優先されることが多いと言えます。したがって、住宅ローンなどが払えずに任意売却を検討している段階で、税金や社会保険料を滞納しているというケースは多く見受けられます。

税金等の滞納額は、ローンの借入額と比べると少額なことが多いです。しかし、税金等の滞納が原因で任意売却が成立しないというケースは少なくありません。任意売却の阻害要因として、街金融などの気合が入った債権者を思い浮かべる方もいると思いますが、税金等を回収しようとする役所の方が厄介な存在になる事が多いと言えます。

したがって、税金等の滞納は出来るだけ避けて欲しいと思います。しかし、既に滞納している場合でも対処法は存在します。税金等を滞納している場合の対処法について、まだ不動産の差押えを受けていない場合と、既に差押えを受けている場合とに分けて説明して行きます。

不動産の差押えを受けていない場合

税金等の滞納が続くと、滞納処分により不動産や預貯金などの財産を差押えられることがあります。滞納処分により不動産の差押えを受けると、不動産を処分する権限が失われますので、差押えの解除を受けない限り任意売却は出来ません。後で詳しく説明しますが、この差押えの解除がとても大変なのです。したがって、差押えを受ける前に手段を講じて差押えを回避することが大切です

税金の支払いができない場合は、まず役所に事情を話して今後の返済予定につき真摯に相談することが大切です。そうすれば、無理のない金額での分割払いを認めて貰えることも多いです。したがって、なるべく早い段階で相談に行くようにしましょう。ただしその際には、任意売却を検討していることを絶対に役所に知られないように注意して下さい。不動産を売却する意向を知られると、すぐに差押えをされる危険があるからです。

また、親族からの借入などで納税資金を用意することが可能であれば、それも一つの方法と言えます。他にも、保険の契約者貸付を利用したり、保険を解約して解約返戻金を受け取ることで、納税資金を用意する方法も考えられます。ただし、カードローンなど高利の貸付を利用することは避けた方が良いでしょう。借金が膨らむだけで、根本的な解決にならない事がほとんどだからです。

不動産の差押えを受けている場合

滞納処分により不動産の差押えを受けている場合、差押えを解除しないと任意売却できません。この場合、役所と交渉するなどして、差押えを解除させる事を目指しますが、その前提として、税金等の差押えと担保権の優先関係および無益な差押えの禁止について、まずは理解しておく必要があります。そして、それを前提にどのような対処法が存在するのかを説明をして行きます。

税金等の差押えと担保権の優先関係

税金等の差押えと担保権の優先関係は、税金等の法定納期日と担保権の登記の先後によって決まります

例えば、自宅の価値が3000万円だとして、A銀行の1番抵当権2500万円、B銀行の2番抵当権1000万円が設定されているとします。そして、税金の滞納分100万円につき税務署が差押えた場合で、法定納期日がA銀行の登記とB銀行の登記の間であるとした場合、A銀行が2500万円、税務署が100万円、B銀行が400万円の配当を受けられることになります。

無益な差押えの禁止

上記の例のように、差押えた財産から税務署が配当を受けられる場合は、差押えをする実益があると言えます。

しかし、税金の法定納期日がB銀行の登記よりも後である場合はどうでしょうか。普通に考えれば、税金等を滞納するような状態だと、住宅ローンなどの審査に通らない事が多いので、抵当権の登記よりも滞納した税金の納期日が後であるケースの方が、圧倒的に多いと言えます。この場合、自宅の価値が3000万円で、A銀行の2500万円とB銀行の500万円が優先して配当を受けることとなり、それ以上の余剰はありませんので税務署は配当を受けられません。

このように、担保の余剰がなく配当を受けられない場合の差押えは、「無益な差押え」として国税徴収法48条2項により禁止されており、地方税法もこれを準用していますしかし実際の現場では、無益な差押えは頻繁に行われており、任意売却を阻害する一番の要因とも言われています

差押えの解除にあたっては、無益な差押えに該当するか否かで対処法も変わってくるので、以下でそれぞれの場合につき説明して行きます。

無益な差押えの場合

そもそも、なぜ違法である無益な差押えが横行しているのでしょうか。無益かどうか微妙なケースの場合は、ある程度仕方がない面もありますが、明らかに無益と判断できる場合でも平然と差押えがされるケースが実際にはよくありますので、税務行政の在り方に疑問を感じる事も少なくありません。

その際の役所の言い分は以下のようなものです。

抵当不動産の評価額は評価する人により差があるし、評価にも時間がかかる。また、抵当権などで担保される債務額がわからないと無益かどうかは判断できず、この調査にも時間がかかる。その間に差押えの時期を失すると困るから、無益かどうかは差押えの時点では厳密に捉えるべきではない。

一応もっともらしい言い分ではあります。

しかし、固定資産税評価額などの公的評価をもとに、不動産の価値を把握することは可能です。そもそも、固定資産税評価額は固定資産税等の税金を徴収するために役所が決めた評価額です。また、債務額についても、確定申告時に決算書を提出しますし、サラリーマンでも住宅ローン控除を受けている場合には残高証明を提出しますので、明らかな債務超過の場合はかなりの確率で見分けられると思われます。

少し話は逸れましたが、無益な差押えがされた場合の対処法について、これから説明して行きます。

無益な差押えの解除申請

無益な差押えがされた場合にはその旨の主張をして、差押えを解除してもらう必要があります。国税徴収法79条1項2号にも、無益な差押えについては差押えを解除しなければならないと規定されています

差押えを解除してもらうには、役所に行くなどして申請する必要があります。基本的には不動産の所有者本人が交渉することになっていますが、なかなか難しいと思いますので、任意売却を依頼した不動産業者の担当者に付き添ってもらう方が良いでしょう。また、債権者である銀行などの担当者が付き添ってくれる場合もあります。

交渉の際には、無益な差押えであることを証明するための資料を準備することも大切です。具体的には、差押え解除の申請書を作成した上で、担保権者が発行する残高証明書、登記事項証明書(共同担保目録付き)、固定資産税評価証明書などを持参すると良いでしょう。また、無益な差押えかどうか微妙なケースでは不動産鑑定士の作成した鑑定評価書を併せて持参することもあります。

国税の場合は、ここまでですれば差押えを解除してくれる事が多いです。しかし、地方公共団体の場合は、「税金は全額払ってもらわないと解除できません」と強硬に主張してくる担当者も少なくありません。そのような場合は、国税徴収法の規定は地方税法にも適用されること、無益な差押えにより任意売却が阻害され競売で安く売却された場合は、その損害が国家賠償法の対象となりうることなどを説明して、理解を得られるケースもあります。

なお、相手が役所なので、差押えの解除には時間がかかるケースが多いです(最低でも3週間くらいは見た方が良い)。したがって、時間的余裕を持って交渉にあたることが必要です。

解除に応じてもらえない場合

上記のような解除申請に応じてもらえない場合、法的には行政庁に対する不服申し立てや裁判所に訴訟を提起をすることで、処分の取り消しを求めることは出来ますが、任意売却の場合は、実務上それだけの時間をかけられない事が多いと言えます。

したがって、売却代金から解除料を払うことを申し出て差押えを解除させることが多いです

ただし、解除料には債権者の承諾が必要となりますので、法外な金額を請求されると債権者が承諾せず、競売になってしまう事もあります。その場合は、競売で安く売却せざるを得なかったことを理由に、国家賠償訴訟を提起して賠償を請求するほかありません。

無益な差押えではない場合

無益な差押えではない場合は、役所の差押えに違法性はありません。したがって、基本的には滞納分を納付しない限り、差押えは解除されません。

しかし、任意売却で高く売却出来た方が税金の滞納分を多く解消できる可能性が高いことを説明し、その理解を得られれば、差押えを解除してくれる可能性もありますので、諦めずに交渉することが大切です

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