任意売却の利害関係人

任意売却には利害関係人の協力が必要

任意売却を成立させるには、利害関係人の同意や協力が必要になります。任意売却の利害関係人には色々ありますが、多重債務状態になるにつれて利害関係人の数が増える傾向にあり、そうなると任意売却の成立が難しくなります。したがって、早い段階で任意売却に着手することが理想的です。

これから具体的な利害関係人の例を挙げて、それぞれについて説明して行きます。

利害関係人の例

  • 担保目的で登記している債権者(抵当権・根抵当権・所有権移転仮登記等の登記名義人)
  • 強制執行やその準備に着手している債権者(差押え・仮差押えの登記名義人)
  • 滞納処分により差押えをした国や地方公共団体
  • 連帯保証人など(収入合算で住宅ローンを組んだ場合の元夫や元妻など)
  • 不動産の共有者(夫婦共有名義で買った場合の元夫や元妻など)
  • 不動産の占有者(賃借人など)
  • 破産管財人

担保目的で登記している債権者

住宅ローンや事業用ローンなど、不動産を担保にお金を借りている場合、任意売却をするには、債権者の同意を得て、担保の登記を抹消してもらう事が必要です。もちろん、売却して全額返済できる場合は、同意は不要ですが、そのようなケースは少ないです。

通常、借入を全額返済しないと、担保の抹消には応じてもらえません。しかし、担保付を前提に売りに出しても、特殊な場合を除いて、買い手は付きません(担保の実行によりいつ権利を失うか分からないから)。したがって、売却しても全額返済できる見込みが薄いときは、売却時に担保の抹消に協力してもらえるよう、事前に債権者の同意を得ておく事が必要なのです。その際、担保権を持つ全ての債権者の同意が必要なのは言うまでもありません。

なお、よく利用されている担保権としては、「抵当権」と「根抵当権」があります。住宅ローンでは抵当権が利用され、事業目的の借入では根抵当権が利用されるのが一般的です。他には、「所有権移転仮登記」が担保目的で使われることもありますが、これは、抵当権などに比べ登録免許税(登記にかかる税金)が安いため、街金融などがよく利用します。

強制執行やその準備に着手している債権者

不動産を担保にお金を貸している場合、担保を実行して競売にかけることで貸金を回収することができます。しかし、担保を取らずにお金を貸した場合は、担保の実行という方法はとれません。その場合、訴訟を提起して貸金の回収を図ることが一般的です。

担保のない債権者が債権回収しようとする場合、まずは債務者の財産を調べる事から始めます。調べた結果、不動産など価値のある財産を見つけられれば、それを差押えて強制競売(担保のない債権者による競売のこと)により回収することを目標にします。

ただ、強制競売にかけるには裁判所の判決などの債務名義(強制執行の許可証のようなもの)が必要です。判決を得るには訴訟を起こす必要がありますが、訴訟にはそれなりの時間がかかってしまいます。ところが、訴訟して争っている間に債務者が不動産を他人に売却するなどしてしまうと、債権者は勝訴したとしても差押さえることが出来なくなり、これまでの苦労が水の泡となってしまいます

このような事態を防ぐため、債権者は訴訟を起こす前に、裁判所に申立てて仮差押命令を発令してもらい、これに基づき不動産の「仮差押え」をしてその登記を得ておきます。そうする事で、債務者は不動産を処分することが出来なくなりますので、債権者は安心して訴訟に臨めることになります。その後、訴訟が終結して勝訴判決が出れば、債権者はこれに基づき強制競売を申し立てて「差押え」の登記を得れば良いのです。

このように「仮差押え」や「差押え」の登記があると、不動産の処分ができないので、任意売却をするためには、それらの登記名義人に協力してもらい、仮差押命令や強制競売を取下げてもらう必要があります。

滞納処分による差押えをした国や地方公共団体

税金や社会保険料を滞納すると、不動産に差押えを受けることがあります。差押えられると不動産の処分が出来なくなるので、任意売却をするためには、差押えを解除してもらう必要があります。その際に解除料が必要になるのですが、役所は強硬なことが多く、法外な解除料を要求されて任意売却が成立しないこともよくあります。したがって、税金などの滞納には注意が必要です。

→税金の滞納がある場合の任意売却はこちら

連帯保証人など

任意売却をする場合は、連帯保証人などの同意も必要になります。とくに、夫婦の収入合算で住宅ローンを組んでその後離婚した場合など、元夫や元妻が連帯保証人となっているケースでは、同意を得るのに苦労することがあります

法律上は不動産を売る際に連帯保証人の同意は不要ですが、実務上は連帯保証人の同意がないと債権者が任意売却に応じてくれません。それは次のような理由からです。

連帯保証人が債務者の代わりにローンを払った場合は、債務者に対して求償権を持ちます(代わりに払っておいたからその分を私に払え)。そして、求償権に基づき債権者の持つ抵当権などの権利を代位行使(債権者に代わって行使する)することが認められています(民法500条)。なので、連帯保証人など代位権者となりうる者のために、債権者は担保を保存する責任を負っています(民法504条)。

そうすると、連帯保証人が任意売却に納得していないと、次のようなクレームを債権者に言ってくる可能性があります。

「私は担保評価が5000万円と聞いたから、5000万円の借入に連帯保証人のハンコを押した。なのに4000万円で任意売却されても困る。だから差額の1000万円については連帯保証人としての返済義務は負わないはずだ。」

このような主張は、民法504条で認められていて、理にかなったものと言えます。ただし、債権者の負う担保保存義務は特約で排除できるとされていますので、実務上は担保保存義務排除の特約をつけて連帯保証契約を結びます。とは言え、実際に裁判で争われた場合は、諸事情によっては特約が無効と判断される可能性もありますし、そもそもそんな訴訟を起こされること自体が面倒です。

したがって、連帯保証人などの同意がなければ、債権者は基本的に任意売却には同意しません。

不動産の共有者

任意売却に限らず、共有不動産を売却する場合には、共有者全員が賛成する必要があります。とくに、夫婦共有で自宅を購入してその後離婚した場合など、共有者である元夫や元妻の協力を得るのに苦労することがあります

したがって、離婚をする際には、不動産の名義についても適切に処理しておくことが大切です。

不動産の占有者

賃借人などの占有者がいる場合、任意売却のためには、その人の協力が必要になります。

投資用物件の場合は、賃借人がいてもそのまま売却すれば問題ないですが、居住用物件の場合は、賃借人がいると売却価格がかなり下がります。なぜなら、購入しても自己使用できないため、購入するのが不動産投資家に限定されてしまいます。ところが、ファミリータイプの居住用物件は、ワンルームなどに比べて、借り手が見つけにくく利回りも低くなるので、通常より値段を下げないと投資家は購入したがらないからです。したがって、居住用物件の場合は、賃借人を退去させられる見込みが無いと、債権者が任意売却を認めないことが多いです

賃借人に退去してもらうためには、立退料を払うことも考えられますが、債務者の手持ち資金から払えることは少ないでしょう。そうすると、売却代金の中から債権者に負担してもらう事になりますが、この同意が得られないケースもあります。そこで、立退料なしで賃借人に退去してもらえるように上手く交渉することが大切になります。

例えば、競売になると室内の写真を撮影されてネットで公開されることを賃借人に説明するのも良いかも知れません。また、抵当権の設定より後に入居した賃借人の場合は、競売の買受人に対して賃借権を主張できないため、いずれは退去する必要があることを説明するのも良いと思います。

破産管財人

破産手続き開始後に任意売却をする場合、破産管財人の協力が必要になります。

破産が開始して破産管財人が選任されると、債務者は財産を管理・処分する権限を失い、破産管財人が債務者に代わって財産を管理・処分することになります。したがって、破産管財人がいる場合の任意売却では売主は破産管財人となります。

そして、任意売却が成立した場合には、売却に協力してくれた破産管財人への手数料的な意味も込めて、売却代金の3~5%くらいの金額を破産財団(現金に換えて配当に回す債務者の財産の集合体)に組み入れることが慣行となっています。

【関連記事】

任意売却について徹底解説

住宅ローンの返済が難しい場合の任意売却について解説しています。任意売却の基本的な仕組みから、メリットやデメリット、任意売却にかかる費用等について解説しています。任意売却を検討する際の参考にしてみて下さい。

Read more
税金や社会保険料の滞納がある場合の任意売却

税金等の滞納があると、任意売却が阻害される事がよくあります。したがって、滞納しないのが一番なのですが、この記事では、万が一滞納してしまった場合の対処法について詳しく解説しています。滞納による差押えがあるかどうかで対処法が異なるので、その点についても説明しています。

Read more
任意売却と自己破産のどちらを先にやるべきか

この記事では、破産前に任意売却をする事のメリットについて説明しています。ただし、破産前に任意売却を行う際には、任意売却における売却金額や手元に残る売却代金の扱いについて、細心の注意を払う必要がありますので、その点についても詳しく解説しています。

Read more

お電話でのご相談は無料です!04-7192-7623受付時間 9:00-20:00 [年中無休 ]

WEBでのお問い合わせはこちら