任意売却にかかる費用を徹底解説

原則として費用を持ち出しで払う必要はない

任意売却の場合も、通所の売却と同じく費用がかかります。しかし、住宅ローンが払えずに任意売却をするわけですから、ほとんどの場合、手持ちの資金から支払うことは難しいでしょう。そこで、任意売却にかかる費用は、債権者の同意を得て、売却代金から清算することになるので、原則として持ち出しで支払う必要はありません

ただし、住民票・印鑑証明書・固定資産税評価証明書等の取得にかかる代金、債権者への振込手数料、契約書に貼る印紙代などの実費は手持ちの資金から払うことがあります(印紙代については、契約書を1通にして、買主に原本・売主にコピーを交付すれば、実質的に売主の負担をゼロにできる)。

任意売却にかかる費用を売却代金から清算するには、債権者の同意が必要ですが、「一般的に認められる費用」と「ケースバイケースで認められる費用」とに分類できるので、これから個々に説明して行きます。

一般的に認められる費用

  • 仲介手数料
  • 登記費用
  • 後順位担保権者への担保解除料(ハンコ代)
  • 管理費・修繕積立金等の滞納分の支払い
  • 固定資産税等の滞納分の支払い
  • 地代等の支払い
  • 破産財団への組入金
  • 不動産鑑定費用

仲介手数料

任意売却を依頼した不動産業者に支払う仲介手数料です。任意売却の場合でも、通常の売却と同じく仲介手数料がかかります。任意売却の場合は、通常の売却よりも手間がかかりますが、良心的な業者であれば仲介手数料以外の報酬は請求しません。しかし、仲介手数料の他に「コンサル料」等の名目で報酬を請求する業者も存在するようなので、依頼の際には注意が必要です。

仲介手数料の上限は、宅建業法46条と国交省の告示で決められており、以下の速算式で計算することが出来ます。

速算式
仲介手数料=取引価額×3.3%+6万6千円

例えば、3000万円で売却した場合は、3000万円×3.3%+6万6千円=105万6千円となります。

仲介手数料について詳しくはこちら

登記費用

不動産を売却する際には、金融機関が担保として設定した抵当権などの登記を抹消する必要があります。これは、任意売却の場合でも同じです。抵当権を抹消する費用には、登録免許税(登記にかかる税金)司法書士への報酬があります。

まず、登録免許税は、不動産1個につき1000円となります。

一番多いのは、建物1個と土地1個に抵当権が設定されているケースで、この場合の登録免許税の金額は合計2000円となります。敷地が数個の土地に分かれていたり(マンションの場合に多い)、私道部分にも抵当権が設定されたりするケースの場合は、その個数分だけ登録免許税が必要となります。

ただし、上限は2万円とされているので、例えば敷地が100個の土地に分かれている場合でも、10万円かかるのではなく2万円で済みます。

次に、司法書士の報酬ですが、これは依頼した司法書士により異なります。抹消一件につき1~3万円くらいが相場かと思います。

後順位担保権者への解除料(ハンコ代)

任意売却をする場合、その不動産の担保権者全員から、担保権の解除の同意を得る必要があります。担保権が付いたままの不動産など、誰も買いたがらないからです。

担保権者が複数いる場合、その優先順位は登記の先後によって決まります。そして、競売になった場合には1円の配当も受けられない後順位担保権者がいることも珍しくなく、そのような担保権でも解除できない事には任意売却が進められません。配当を受けられない担保権者としては、費用をかけて担保権の登記をした挙句、融資が焦げ付いた訳ですから、タダで解除に協力しろと言っても、応じてもらえるものではありません。

そこで、売却代金から解除料(いわゆるハンコ代)を払うことで、担保権の解除に協力してもらうのです。解除料の金額は、不動産の売却価格や担保権の種類によってまちまちですが、10~100万円くらいの間で合意することが多いです。

管理費・修繕積立金等の滞納分の支払い

マンションの場合、管理費や修繕積立金等の滞納があると、法律上その支払い義務は買主に引き継がれます。したがって、滞納したままでは買い手が見つかりづらいので、売却代金から滞納分を清算することが一般的です。そして、これには抵当権者などの債権者の同意が必要となります。

ただし、滞納額が大きいと債権者の同意が得られにくくなります。例えば、住宅金融支援機構の場合は、管理費と修繕積立金は最大5年分を限度に認めるとしています。また、管理費・修繕積立金の滞納額に付される遅延損害金までは認めない債権者が多いです。そして、それ以外のマンション関係の経費、例えば、駐車場代・駐輪場代・ルーフバルコニー使用料・町会費・組合費・インターネット使用料・水道料金などの滞納分は、一切認めないという債権者も多いので注意が必要です

また、管理費・修繕積立金等の滞納がある場合、管理組合はこれを回収するために、債務者が所有する専有部分を差押えて競売にかけることが出来ます。滞納があればすぐ競売という訳では無いですが、何もしないと5年で時効になってしまうため、滞納が長期に渡ると差押えられることがあります。既に差押えられている場合は、管理組合と交渉して差押えを解除してもらう必要があり、まだ差押えられていない場合は、事前に管理組合と話をつけておき、差押えを回避する必要があります。その際の管理組合との話し合いで、管理費・修繕積立金等を減額させる事は難しいですが、遅延損害金であれば交渉に応じてくれることもあります。

なお、管理費・修繕積立金等の滞納による競売には2つのケースがあります。1つは管理費・修繕積立金等に認められる「先取特権」という担保権を実行して競売するケースです。もう1つは区分所有法59条に基づく競売請求権です。ここでは、詳細な説明は省きますが、とくに後者はかなり強力な手段となっているので、管理費・修繕積立金の滞納には注意が必要です。

固定資産税等の滞納分の支払い

固定資産税等の税金の滞納を放置していると、不動産の差押えを受けることがあります。差押えがあると任意売却が成立しないため、売却代金から解除料を払うことを条件に、差押えを解除してもらうことがあります。解除料の金額はケースによって様々ですが、役所は強硬なことが多く、法外な解除料を要求されることもよくありますので、税金の滞納には注意が必要です。

一方で、滞納があっても不動産の差し押さえを受けていなければ、そのまま任意売却を進められます。しかし、売却を進めている間に差押さえを受けるリスクはありますので、早めに役所に行って支払いの相談をした方が良いです。なお、支払いの相談をする際には、役所に売却を知られないように細心の注意を払うことが大切です。売却の意向を知られると、すぐに差押さえられる危険があるからです。

税金の滞納がある場合の任意売却について詳しくはこちら

地代等の支払い

債務者が借地上に建物を所有している場合、地代の未払いがあると、地主から借地契約を解除されることがあります。そうなると、建物は撤去せざるを得なくなるため、債権者としては建物を競売することはできず、任意売却も当然できませんので、債権回収に支障が出ます

そこで、地代の滞納があって土地の利用権が危うい状態のときは、債権者が代わりに地代を支払っておき、任意売却後に売却代金から清算するという事があります。なお、競売の場合でも裁判所の許可を条件に地代の代払いが認められており(民事執行法56条・188条)、債務者が地代を滞納している場合は、代払いされるケースがほとんどです。

破産財団への組入金

破産開始後に任意売却をする場合、破産財団(債務者の財産の集合体)への組入金が要求され、売却代金から支払われるのが一般的です。組入金の額に決まりはありませんが、売却価格の3~5%くらいである事が一般的です

不動産を所有した状態で破産手続きが開始した場合、裁判所により破産管財人が選任されます(実務上は弁護士が選任される)。破産管財人は、破産財団に属する財産を管理・処分する権限を持ちますので、任意売却は破産管財人が売主となって進める事になります。

破産管財人の仕事は、破産財団を構成する財産を現金に換えて、出来るだけ多くの金額を一般債権者に配当する事です。そのため、破産管財人による任意売却の場合には、破産財団に売却代金の一部を組み入れて、一般債権者への配当に充てることが慣行となっています。また、組入金には任意売却に協力する破産管財人への手数料的な意味合いも含まれています。

不動産鑑定費用

通常の任意売却では、不動産鑑定士による鑑定評価は必須ではありませんが、一定の場合には利用することもあり、その場合は費用が掛かります。

例えば、破産管財人が任意売却を行う場合です。破産管財人が不動産を売却するには、裁判所の許可が必要とされます。その理由は、不当に安値で売却されると、配当が減り債権者の利益が害されるため、裁判所によるチェックが必要だからです。したがって、許可をもらう際に、売却価格が正当であることを示す根拠として、鑑定評価書を提出することがあるのです。

また、税務署等による差押えに対して、無益な差押えを理由とする解除申請をする場面でも、鑑定評価書を用いることがあります。不動産の客観的な評価を示すことで、配当の見込みが無いことを明らかにするためです。

ケースバイケースで認められる費用

  • 引越し費用
  • 建物のリフォーム費用や撤去費用など
  • 測量にかかる費用
  • 賃借人などの立退料

引越し費用

任意売却の場合、売却代金の中から引越し費用をもらえる場合があります。金額は10万~50万円くらいのことが多いです。引越し費用は、必ずもらえる訳ではなく、債権者の考え方次第となります。最近は引越し費用を認めたがらない債権者が多くなっています。また、もらえたとしても引越し後のことが多いので、最初から引越し費用を当てにした計画を立てるのは止めた方が良いでしょう。

しかし、債務者にお金がなくいつまでも退去が出来ないとなると、任意売却がスムーズに進みませんので、債務者の経済事情によっては柔軟に応じてくれる事もあります。

建物のリフォーム費用や撤去費用など

任意売却に限らず、不動産を売却する場合は、現況のままで市場に出すというのが基本です。先に手間や費用をかけて手を加えたとしても、その分を売却価格に上乗せできるとは限らないからです。したがって、古い建物などが存在している場合でも、そのままの状態で売却できないかまずは考えるべきです。

しかし、傷みや損傷が激しく使用に適さない建物であったり、用途が特殊すぎて買い手が付きにくい建物の場合は、撤去することで高く売れる可能性が高いです。また、建物自体に問題はなくても、壁紙や床などの汚れが酷く販売しづらい場合には、リフォームが有効な手段となることもあります。いずれにせよ、債権者と話し合ってどうするか決めます。そして、リフォームや撤去にかかる費用は、売却代金の中から債権者が負担することになります。

測量にかかる費用

任意売却の場合、公簿売買が原則なので土地の測量をするケースは多くありません。公簿売買とは、登記簿に記載された土地面積を基準に代金を決めて売買し、後で実測面積との違いが判明したとしても代金の清算は行わない方法です。

しかし、買主が公簿売買を嫌がって測量を希望する場合には、測量を行うこともあります。この場合、基本的に測量費は買主の負担となりますが、買主との条件交渉次第では売主側が測量費を負担することもあります。任意売却の場合に売主が負担すべき測量費は、売却代金の中から債権者が負担することになります。

賃借人などの立退料

もともと投資用で購入した物件の場合は、賃借人がいる状態での任意売却(オーナーチェンジ)でも問題になる事は少ないです。

これに対して居住用の物件を賃貸している場合、賃借人がいる状態で販売すると価格がかなり下がりますので(通常の価格では利回りが低いため値段を下げないと投資家は買わない)、賃借人を退去させないと任意売却を認めないという債権者は多いと言えます

そのため、止むを得ず売却代金の中から債権者が立退料を負担する場合もあり、立退料の相場は月額賃料の2~6か月分程度と言われています。ただし、あくまでも「止むを得ず」といったところです。そもそも、住宅ローンを組んで買った家を賃貸に出すことは、原則として契約違反になります(転勤等の止むを得ない理由があって債権者の承諾を得た場合は別)。ですから、債権者が積極的に立退料を負担する姿勢を見せることは期待しない方が良いでしょう。

そうすると、立退料なく退去させられるよう賃借人と上手く交渉する事が大切になります。例えば、室内の写真を撮られてネットに情報が掲載されること、抵当権の設定よりも後に入居した賃借人であれば競売となった場合にいずれは退去させられること、などを理解させてスムーズに退去させたケースもあります。

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