不動産売買では対象を明確にする必要がある
物を売買する場合には、売買の対象を特定する必要があります。例えば、喉が渇いたのでコンビニで缶ビールを買ったという場合、手に取ったそのビールが売買の対象となります。すなわち、容器である缶と中身のビールが売買の対象となりますが、当たり前のこと過ぎて、普段は特に意識しないかと思います。
しかし、不動産を売買する場合は、どこまでが不動産として扱われるのかと聞かれても、すんなりと答えられる人は少ないのではないでしょうか。土地や建物が不動産であることは、常識で考えればわかりますが、敷地内の物置や樹木、建物に備え付けられたクーラーやキッチンなどが不動産に含まれるかどうかは、答えるのに少し迷うかも知れません。
不動産を売買する際には、どこまでが売買の対象なのかをはっきりさせておかないと、後々のトラブルの原因となってしまいます。例えば、売主は物置を撤去して引越し先に持っていくつもりだったのに、買主は物置も売買の対象だったと考えていたような場合には、トラブルに発展してしまう可能性があります。したがって、売買の対象がどこまでかという点を明確にしておく必要があります。
どこまでが不動産売買の対象か
不動産売買において、その対象となる部分を明確にするために、まずは「不動産」の定義について理解する必要があります。
そして、この点については民法に定めがあります。
(民法86条1項) 土地及びその定着物は、不動産とする。 |
民法86条1項を読めば、土地が不動産であることは明らかです。そして、民法86条1項の「その定着物」とは、土地に付着して容易に分離できないものを指します。例えば、土地に物置が置いてある場合、それが基礎によって土地に固定されていれば不動産として扱われることになりますし、手で押せば動かせる状態であればそれは不動産として扱われないことになります。同じように考えれば、土地上に存在する樹木は、根を張っていて容易に動かせませんので、不動産として扱われることになりますし、土地に固定されている塀やカーポートなども、簡単には動かせませんので、不動産として扱われることになります。
それでは、「建物」はどのような扱いになるのでしょうか。建物は土地から容易に動かせず、土地の「定着物」ですから、建物が不動産であることは明らかです。しかし、建物の場合はその他の「定着物」とは扱いが異なります。すなわち、前述した物置、樹木、塀、カーポートなどの定着物は、土地の一部として扱われますが、建物は土地とは別の不動産として扱われているのです。この点について法律は明確に規定していませんが、民法370条が「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ」と規定しており、土地の抵当権の効力が建物には及ばないことから、民法は土地と建物を別々の不動産として扱っていることがわかります。
したがって、法律上は土地とその上に建つ建物を別々に売却することも可能です(実際にはそのようなケースは稀ですが)。
それと、更に考えなければならないのは、建物には何が含まれるかです。建物には、キッチンや風呂トイレ、エアコン、照明、カーテン、網戸など様々な設備が設置されていますが、これらは建物に含まれるのでしょうか。
この点についても民法に規定があります。
(民法242条) 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。 |
民法242条の「従として付合」とは、ぴったりと結合している状態であり、結合したものを損傷するか、または多額の費用をかけないと分離できないような状態を指します。したがって、キッチンや風呂トイレなどは、取り外しが困難であり「従として付合」していると言えますので、建物に含まれることになります。これに対して、エアコンや照明、カーテン、網戸などは簡単に取り外せますので、「従として付合」しているとは言えず、建物には含まれないことになります。
このように、どこまでが土地・建物に含まれるかを知っておくと、売買対象となる範囲が明確になり、トラブルを防ぐことができます。
売主には土地の境界を明示する義務がある
上述したとおり、民法86条1項の規定から、土地が不動産であることは明らかです。しかし、土地は陸地が続く限りどこまでも広がりをもちますので、どこかで人為的に区切って一つの物として扱わないと、売買をする際に対象となる範囲が決められません。
そのため、土地は1筆ごとに登記がされ、1筆の土地が1つの不動産として扱われることになっています。登記された土地には筆ごとに「地番」が振られていて、「地番」は権利証や登記簿等で確認することができます。ちなみに、「地番」は「住所」の表記とは異なる場合があります。場所によっては、表記が全く同じということもありますが、東京23区などの都市部では表記が異なることが一般的です。
ところで、土地の場合は、登記されていたとしても自分が所有する範囲がよくわからないというケースもあります。自分の土地と隣地や道路との境界がわからず、境界を明示できないというケースがあるのです。平成以降に分譲された土地などでは、このようなケースは少ないのですが、先祖から受け継いだ土地など古くから所有している土地の場合には、このようなケースが少なくありません。
古くから所有している土地だと、境界標の位置がわからなくなってしまったり、境界標が朽ち果ててしまったりしてしていることがあります。そのような土地の場合、地積測量図が存在しないこともありますし、地積測量図が見つかったとしても、古い地積測量図だと測量の精度が低かったり、隣地所有者の立ち会いがないまま作成されている図面もありますので、現地で境界標を復元することが難しい場合があります。
ところが、通常の売買契約では、売主には境界明示義務が課せられています。したがって、そのような土地を売却する場合は、土地家屋調査士に測量を依頼して、境界を明確にしてから売却するのが基本です。境界がはっきりしないと、どこまでが売買の対象なのかがわからず後々トラブルになる可能性が高いからです。
もっとも、売買契約に特約を設けるなどして、例外的に境界を明示せずに売買することもあります。このような境界非明示の売買も法律上は有効とされていますが、境界非明示の土地は資産価値が大きく下がりますし、住宅ローンの利用も難しいため、買い手がかなり限られます。したがって、一般の人が境界非明示の土地を買うということは少なく、買主はプロの不動産業者などに限られてきます。
公簿売買であっても境界の明示は必要
よく誤解されやすい点なのですが、「公簿売買」であっても境界の明示は必要になります。この点については、不動産営業マンであっても誤解している人は意外に少なくありません。
公簿売買とは、登記簿に記載された地積(土地の面積)と実測面積に差があることが後で判明したとしても、売買金額の清算は行わないという内容の契約のことです。したがって、土地の境界を明示しなくても良いことを意味するものではありません。
公簿売買の場合であっても、境界標が存在する場合には、買主に境界を示して確認してもらいます。
境界標が存在しない場合には、公図や地積測量図、現地の状況などを参考にして境界の位置を示します。その際には、後日のトラブルを避けるために、出来るだけ隣地所有者にも立ち会ってもらうようにします。境界位置について隣地所有者の同意が得られれば、境界標を設置し、境界確認書に捺印してもらいます。
もっとも、境界位置について必ず隣地所有者からの同意が得られるとは限りません。隣地所有者の同意が得られない場合には、例外的に境界標を設置せずに売買することもあります。この場合は、同意が得られなかった事実やその経緯を買主に伝えた上で、売主が考える境界位置を示した「境界に関する説明書」などを作成し、これについて買主の了承が得られれば、売買をすることも可能です。なお、この説明書によって売買をしたとしても、免責の特約を併せてしておかないと売主の責任は免責されないので注意が必要です。
付帯設備標を作成する
住宅には様々な設備がありますが、既に述べたとおり、何が「不動産」に含まれるかは、民法の規定により判断することが出来ます。しかし実際には、不動産に含まれるかどうか判断が難しい設備が設置されていることもありますし、売主と買主とで解釈に差がある場合もあります。とくに居住中の物件を売却する場合には、家具や家電など様々な設備がある状態で買主は内覧しているため、売主はその設備を引越しの際に持っていこうと考えていたのに、買主はその設備も売買の対象に含まれると思ってしまうということが起きやすいのです。
そのため、不動産業者が既存住宅の売買を仲介をする際には、設備・備品等について何が売買の対象となるかを明確にするため「付帯設備表」を作成するのが一般的です。また、設備の中に使用できないものや不具合のあるものがあれば、その内容も記載するようにしています。作成した付帯設備表は、売買契約書と一体となるように綴じて買主に交付します。そうすることが、無用なトラブルの回避につながるのです。
まとめ
日常生活において物を売買する場合には、売買の対象がどこまでかという点について特に意識することは無いかと思いますが、不動産の売買にあたっては、売買の対象を明確にしておくことが非常に重要となります。実際に、売買の対象が明確になっていなかったことからトラブルに発展してしまうケースも少なくはありません。そのため、不動産を売買する際には、どこまでが売買の対象なのかということをしっかりと意識して契約をする必要があります。
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