変動金利と固定金利の選び方

変動金利と固定金利の違い

変動金利とは、返済期間中に金利や返済額が見直されるタイプのローンです。これに対して、固定金利とは、返済期間中の金利と返済額が一定のタイプのローンです。現在では、固定金利よりも変動金利の方が金利が低く設定されています

住宅ローンを組んだり借換えたりする際に、変動金利か固定金利かで迷う方も多いと思います。その際に、よくわからず不動産業者や銀行担当者の言う通りにしてしまうという方も多いかも知れません。

よく「変動金利は今の金利は安くても将来の金利上昇リスクがあり、固定金利は金利が高めだけど返済額が変わらず安心感がある」という説明がされる事があります。こういう説明をする不動産営業マンや銀行の担当者は非常に多いです。しかし、この説明では説明が不十分であり、お客様に誤った判断をさせてしまう可能性があります

そこで、まず金利についての基本的な部分を理解することが大切です。

金利は物価や所得と連動する

住宅ローンの金利は、日銀の金融政策の影響を強く受けます。そして、金利の上下は物価や所得の上下と連動します

高度成長期からバブル期にかけては、人口が増え続けモノが売れる時代でした。人口が多く需要が多いと、多少高くてもモノは売れ、物価は上昇します。物価が上昇すると、同じモノを売っても以前より沢山のお金が入るので、企業は銀行からお金を借りて、雇用や設備に投資して生産を増やします。その結果、雇用が増えて人材が不足すると、競争原理により賃金が上昇して所得は増加します。所得が増えると、更に値上げしてもモノが売れて、物価は更に上昇します。そうすると、どこかで歯止めをかけないと物価の上がり過ぎでインフレとなるため、景気の過熱を抑える必要が出てきます

景気の過熱を抑えるには、金利を上げる政策が有効です。金利が高くなれば、ローンを組んでモノを買う人は減ります。企業としても、モノを買ってくれる人が減った状況で、高い利息を払って融資を受けようと思うはずがなく、借入を減らして生産も抑えるはずです。

このため、バブル崩壊までの日銀は、景気の過熱を抑えるために、金利を高目に推移させる政策を行っていました。

これに対してバブル崩壊後の日本は、モノが売れず長年のデフレに苦しみ続けました。モノが売れない時代に企業が生き残るには、ライバルよりも値下げする事が必要です。その結果として、値下げ競争が起こり物価は下がります。そして、値下げの為には人件費などのコストを減らす必要があるので、所得が減少します。所得が少ない人が増えると、更に値下げをしないとモノは売れなくなり、物価は更に下がって行きます。この悪循環に陥り物価が下がり続けると、デフレに嵌り経済が縮小するため、景気を刺激してあげる必要があります

景気を刺激するには、金利を下げる政策が有効です。金利が下がれば、ローンを組んでモノを買う人が増えます。企業としても、モノを買う人が増えた状況で、低利の融資を受けられるのであれば、借入をして人件費や設備に投資して生産を増やすはずです。

このため、バブル崩壊後の日銀は、景気を刺激するために、金利を低く推移させる政策を取り続け、現在でもそれは続いています。現在の住宅ローンの金利が低いのも、日銀の低金利政策のお陰という訳です。

変動金利と固定金利のリスク

変動金利にも固定金利にもそれぞれリスクがあります。よく、変動金利の金利上昇リスクだけを取り上げる人がいますが、それは一面的な見方でしかありません。

変動金利の場合は、金利上昇のリスクが確かにあります。しかし、金利は物価や所得に連動しますので、金利の上昇局面では所得も増えているのが一般的です。そうであれば、金利が上昇して返済額が上がっても、その分を所得の増加でカバー出来れば問題はありません。とは言え、「世間は儲かっていても自分は儲かっていない」という事はあり得ますので、そのリスクをどう考えるかという問題はあります。

固定金利の場合は、適用金利が変わらず返済額が一定なので安心だとよく言われます。しかし、金利の下降局面では所得が減るのが一般的なので、返済がきつくなるかも知れません。また、これ以上金利が下がらないにしても、現状維持が長く続いた場合は、変動金利に比べて支払い総額が多くなるというリスクはあります。それに、返済開始当初の残高が多い時期に高い利息がかかるため、変動金利に比べて元金の減りが遅いというデメリットもあります。

金利を決める際の指標が違う

よく、ニュースなどで金利の上げ下げが報道されることがあります。それを、住宅ローンを組んだり、借換えたりする際の参考にする方もいると思います。その際に、どの金利のことを報道しているのか知っておくことで、より適切な判断ができるようになります。なぜなら、変動金利と固定金利では、金利を決める際に使う指標が異なるからです。

変動金利は、無担保コール翌日物レートに連動しています。無担保コール翌日物レートとは、コール市場(金融機関同士が資金を借りたり貸したりする市場)における貸し借りのうち、担保なしで借りて翌営業日に返済する場合に付く金利のことを言います。物価を安定させるために、日銀が介入して操作することから、政策金利と呼ばれています。無担保コール翌日物は短期金利(1年以内の貸し借りの金利)の代表的な指標で、住宅ローンの変動金利や普通預金の金利はこれをもとに決められています。

固定金利の場合は、10年物国債の利回りに連動しています。10年物国債の利回りは、長期金利(1年以上の貸し借りの金利)の代表的な指標とされています。国債の利回りは、マーケットでの需給関係で決まるのが原則で、従来は日銀が操作するものではありませんでした。しかし、長期金利も間接的には短期金利の影響を受けるので、マイナス金利政策の影響で長期金利もマイナスとなってしまい(為替変動を考えなければ、国債を買って満期まで保有すると、払った金額より受け取れる金額が少なくなる)、国債を大量に保有する年金基金の運用等に悪影響が生じたため、日銀が長期国債を買い入れて、長期金利を0%程度に推移させるべく操作するようになりました。このように、日銀が短期金利だけでなく長期金利も併せて操作する政策のことを、イールドカーブ・コントロールと呼び、2016年9月に導入されました

短期金利と長期金利の関係

これまでは、日銀が直接に長期金利を操作することは出来ないとされていました。すなわち、日銀は短期金利を操作することで、間接的に長期金利に影響を与える事が出来たに過ぎなかったのです。そして、長期金利がどれくらいになるかは、もちろん短期金利も影響しますが、それ以外にも将来の物価変動や市場の予測など、現時点では不確実な要素に基づく予測により、マーケットで決まっていました。

ところが、上述した通り、現在では日銀が長期金利も操作するようになりました。日銀が長期金利も操作するという事は、これまでに無く異例の事ですこの状態がいつまで続くかは分かりませんが、住宅ローンの金利を考える上では、今後も日銀の政策を注視する必要がありそうです

変動金利について誤解しやすい点

変動金利を選ぶ際に、多くの方が心配するのは、金利変動のリスクではないでしょうか。ただ、変動金利の仕組みを理解せずに、金利だけに着目してリスクを考えるのでは、正しい判断ができません。そこで、変動金利について誤解しがちな部分についてこれから説明したいと思います。

バブル期の金利は9%?

バブルの頃の変動金利は9%近くまで上昇しました。そして、変動金利のリスクとして、この事実が引き合いに出されるされることがあります。しかし、変動金利の金利を決める際の指標が、当時と今とでは異なります

現在の変動金利の指標は、短期金利の代表的な指標である無担保コール翌日物を基準にしています。無担保コール翌日物レートが、日銀の金融政策で決まることは既に述べた通りです。

しかし、1994年までの変動金利では今とは違う指標が採用されていました。すなわち、マーケットの需給関係で金利が決まる長期金利が指標として採用されていたのです。もともと、長期金利はマーケットで決まるものだから変動するのが前提ですが、バブル期には景気が良かったこともあり長期金利が大きく変動したため、住宅ローンの金利が変動する幅も大きかったのです。

しかし、今の変動金利は日銀の政策で決まる短期金利を指標としているので、バブルの頃のような動きをすることは考えにくいです。なぜなら、日銀法2条では、日銀は物価の安定を図るべきと規定されているので、短期金利が大きく動くような政策が行われる可能性は低いからです。

将来の変動金利は上がる?

金利上昇リスクを考える際に大事なのは、いつ金利が上がるかという視点です。例えば、金利が上がるのが2年後であれば、固定金利の場合よりも返済の負担増えるかも知れませんが、これが20年後だったら返済は半分以上終わっているはずなので、現在の低金利の恩恵の方が大きい事になります。

上述したとおり、変動金利が上がるということは、日銀が利上げをする事を意味します。そして、利上げは景気の回復を意味します

では、今の日本経済が置かれた状況を踏まえて、今後の金利の動きを予測してみます。

バブル崩壊以降に続いたデフレからの脱却を図るため、日銀は2013年に物価上昇率2%の目標を掲げ、異次元の金融緩和に乗り出しました。これに一定の成果はあったものの、消費税増税の影響もあって、未だに目標は達成出来ていません。

それにも関わらず、今後消費税の更なる増税が行われる可能性は高いと考えられます。財務省は、少子高齢化による社会保障費の財源不足等を理由に、増税を考えているはずです。それに、国債通貨基金(IMF)からは、2030年までに15%、2050年までに20%の増税が必要との提言を受けています。そうすると、将来の消費税増税により、物価上昇にブレーキがかかる事は、想像に難くありません。

それに、物価は国民の所得と連動しますので、所得が上がらない限り物価も頭打ちになると考えられます

国民の所得について言えば、とくに今の30台後半~40代後半くらいの就職氷河期世代の問題が大きいと言えます。この年代は本来であれば働き盛りで収入も高く、一番お金を使い消費をする年代なのですが、非正規雇用などで所得が少ない人が数多く存在します。また、不安定な雇用でスキルを獲得する機会に恵まれなかった人も多く、既に就職や転職の難しい年齢に差し掛かりつつあり、所得の増加が見込みづらいです。そして、この世代が生産年齢人口(15歳以上65歳未満)に占める割合は多く、国民全体の所得への影響も大きいのです。

このような事から、しばらくの間は所得も物価も上がらないため、利上げはしづらいと考えられます。したがって、金利は横ばいの状態が続くと予測できます

そして、この前提に立つならば、固定金利よりも変動金利の方がメリットが大きいと言えます。変動金利の方が金利が低いので、仮に10年・20年後に利上げされたとしても、その時点で固定金利の場合よりも残高は多く減っているはずだからです。それに、利上げが行われるとしても幅は小さいと考えられます。そうだとすれば、多少金利が上がるとしても、その段階では残高がかなり減っているはずなので、初めから固定金利を選ぶよりも、変動金利を選んだ方が、返済総額が少なく済む可能性は高いと思います。仮に、予測が外れて金利が大幅に上がったとしても、その場合はそれだけ景気が回復して国民の所得も増加しているはずなので、返済が増えた分を所得の増加でカバー出来る事になります。ただ、景気に応じて自分の所得も増えるという保証は無いので、そのリスクは承知しておく必要があります。

これまでの話は、あくまで平時の場合を前提としていて、戦争などの有事が起きた際にはあてはまりません。最近では、ウクライナに攻め込んだロシアの政策金利が、約1か月で9.5%から20%まで引き上げられました。自国通貨の暴落によるデフォルトを避けるためには、金利を引き上げざるを得なかったのかも知れません。

将来の金利動向を予測することは非常に難しいことですが、自分なりに色々と検討しておくことで、後悔のない選択をしたいものです。

金利が上がると返済額が増えて大変?

変動金利の場合、半年ごとに金利の見直しが行われます。見直しの時期は金融機関によりますが、一般的に多いのは、7月から12月までの返済の金利が4月1日に決まり、翌年1月から6月までの返済の金利が10月1日に決まる、というケースです。

変動金利の場合、金利は半年ごとに見直されますが、返済額は5年経過してから(借入または金利見直し日から起算)見直すとされています5年ルール)。したがって、どんなに金利が上がっても、5年間は返済額が変わりません。ただ、金利が上昇した分だけ金利の返済に充てる金額が増えるので、元金の減りは遅くなります。

そして、仮に5年経過後に返済額が増えるとしても、それまでの返済額の125%以内に抑える事になっています125%ルール)。例えば、毎月10万円を返済していた場合、返済額が見直されたとしても、12万5千円以内に収まるのです。ちなみに、過去に125%ルールが発動されたことは一度もありません(金利がそこまで大きく上がったことは一度もない)。

未払い利息が発生する?

5年ルールや125%ルールで返済額が抑えられた結果、未払いの利息が発生するという事が、理論上は起こり得ます。

すなわち、金利が大幅に上昇した場合、利息が返済額を上回ってしまい、返済しても元金が減らず利息が残ってしまう、という事が理論上は起こり得るのです。このとき、払いきれなかった利息のことを「未払い利息」と言います。そして、払いきれなかった利息や元金が、最終返済日まで持ち越された場合は、原則として一括で払うこととされています。

しかし、過去に未払い利息が発生した事は一度もありません。つまり、金利がそこまで大きく上がったことは一度もないという事です。

それでは、今後は未払い利息が発生するような事態になる事があり得るのでしょうか。

ここは常識で考える必要があります。変動期金利を利用して住宅ローンを組んでいる国民は沢山いるので、もし未払い利息が発生して一括で払う事を要求された場合、多くの人が破産せざるを得なくなる可能性があります。また、未払い利息は金融機関にとっては「未収金」となるので、未払い利息が大量に生じると金融機関の経営が傾く可能性もあります。つまり、大混乱が起こる可能性があるのです。したがって、日銀がそのような暴挙とも言えるほどの大幅な利上げを行う可能性は、限りなく低いと考える方が自然です

店頭金利と適用金利の違い

変動金利にせよ固定金利にせよ、借りる際の金利は金融機関によって異なります。

ローンや預金の基準となる「店頭金利」が金融機関ごとに設定されているからです。店頭金利は、市場の金利動向に合わせて各金融機関が独自に設定するものです。そして、ローンや預金の基準となる金利なので、基準金利とも呼ばれています。

しかし、住宅ローンを借りる際に、店頭金利がそのまま適用されることは少ないです。通常は金利優遇措置の適用を受けられるので、店頭金利よりも低い金利で実際には借りられます。そして、実際に借りる際の金利のことを適用金利と言います。優遇を受ける際の条件は、金融機関によって異なりますが、年収や職業が考慮されたり、給与口座やネットバンキングの利用が条件とされることが多いです。

「店頭金利」が「定価」で「適用金利」が「割引価格」だと考えるとイメージしやすいかも知れません

そして、店頭金利を決める際の指標は、変動金利と固定金利とで異なります

上述したとおり、変動金利は「無担保コール翌日物」を基準に決められ、固定金利は「10年物国債の利回り」を基準に決められます。

なお、変動金利の場合は、「短期プライムレート+1%」で店頭金利が設定されるケースが多いです。短期プライムレートとは、金融機関が優良企業向けに短期(1年以内)で貸し出す際に適用される最優遇金利(プライムレート)のことです。そして、短期プライムレートは、短期金利の指標とされる無担保コール翌日物の影響を受けて決まり、都市銀行のレートが一つの基準となっています。ここ10年以上、短期プライムレートは1.475%で、主要銀行の店頭金利は2.475%となっています。

まとめ

変動金利か固定金利かを考える上では、景気が過熱気味になると金利が上がり、景気が減速すると金利が下がるという、金利についての基本的な部分を理解しておく必要があります。その上で、今の日本経済の状況から、今後の金利政策の動向や、将来の自分の収入の変動について、適切に予測を立てることが大切です。

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