競売における三点セット等の読み方

競売物件の資料は、「期間入札の公告書」の写しと一緒に「物件明細書」「現況調査報告書」「評価書」の三点セットが綴られているのが一般的です。どれも重要な資料なので、競売物件に入札する際にはしっかりと内容を理解しておく必要がありますが、法律や不動産の知識が無いと読み解く事は難しいです。これから、それぞれの資料の持つ意味や読み解く際の基本的な知識について解説していきます。

期間入札の公告書

期間入札で売却される不動産については、入札期間が始まる日の2週間前までに、裁判所の掲示板などに公告が掲示されます。そして、期間入札の公告書の写しが3点セットと一緒に競売物件の資料に綴られます。

不動産競売は民事執行法に基づき行われます。民事執行法では、売却方法について「期日入札」「期間入札」「競り売り」「特別売却」の4種類を定めています。実務上は「期間入札」が原則で、期間入札で売れなかった場合に「特別売却」が利用されています。「期日入札」と「競り売り」は、まずお目にかかる事がありません。

期日入札入札期日に入札させた後、その場で開札する方法
期間入札入札期間内に入札させて、別の開札期日に開札する方法
競り売り買受希望者を売却場に集めて価格を競り上げて行き、一番高値を付けてた人に売却する方法(いわゆるオークション)
特別売却入札や競り売りで買受人がいなかった場合に限って行われる売却方法(実務上は先着順の形式が採られている)

期間入札の公告書には、事件番号、不動産の表示(所在・地番・物件種別など)のほか、入札期間、開札期日、買受可能額(入札可能な最低価格のこと)、入札に必要な保証金の額などの情報が記載されています。なお、インターネットで検索した物件につき裁判所の資料を閲覧しに行く際には、事件番号と開札日を必ず確認してから行くようにしてください。

また、競売の資料は事件番号ごとに作成されています。競売は債権者が裁判所に申立てる事によって始まり、申立てた順番で事件番号が割り振られます。そして、債権者が競売を申立てる際には、一つの不動産だけを対象にするとは限りません。したがって、お目当ての不動産の資料(事件記録)を見ようとすると、他の不動産のものも一緒になっている場合があります。この場合、お目当ての物件だけを買う事が出来るか確認しなければなりません。

この点、期間入札の公告書に「一括売却」である旨の記載があるか否かで判断します。すなわち、期間入札の公告書に「一括売却」である旨の記載がある場合は、お目当ての物件だけバラで買うという事は出来ず、全部まとめて買う必要がある事になります。裁判所の基本的な姿勢は個別物件ごとに入札させる方法ですが、まとめた方が高く売れそうな場合には一括売却されます。例えば、戸建て住宅の場合には土地と建物をセットで売却するのが普通ですし、マンションの場合に複数の部屋をセットで売却するケースもあります。

物件明細書

3点セットの1つ目が物件明細書です。物件明細書には、不動産の表示のほかに、「法定地上権」「買受人が負担する他人の権利」「物件の占有状況」「その他買受けの参考となる事項」について記載されています。物件明細書に記載される事項は、入札にあたって重要なものばかりですが、不動産や法律の知識が無いと正確に読み解くことが出来ません。

ただ、物件明細書に書いてある事実は、調査時点における裁判所の認識・判断を記したものに過ぎず、権利関係を確定する絶対的なものではありません。記載と異なる事実があれば、そちらが優先されるので注意が必要です。また、裁判所の調査より後に、占有者が変わるなど状況が変化する場合があります。競売物件の所有権は、買受人が代金を納付するまではその所有者のものであり、自由に他人に賃貸したりする事が可能なので、このような事も珍しくはありません。したがって、現場に行くなどして必ず物件の状況を確認した方が良いでしょう。

それでは、物件明細書の記載事項につき、それぞれ説明して行きます。

法定地上権

法定地上権とは、競売により土地と建物の所有者が異なる事になった場合に認められる地上権(土地の利用権)のことです

例えば、Aが土地とその上に存在する建物を所有していて、建物だけに抵当権を付けて銀行から借入をしたとします。そして、返済が滞り銀行が競売申立てて建物をBが競落したとします。そうすると、土地はA所有で建物はB所有になります。この場合、Bの土地利用権を認めてあげないと、Bは不法占拠者となってしまい、Aから建物を撤去して出ていけと言われれば、そうするしか無くなります。それでは、競売でせっかく買っても建物が取り壊しになってしまい不都合なので、法定地上権の制度が作られました(民法388条)。すなわち、この場合のBに地上権という土地の利用権を自動的に与える事にして、建物を撤去して出て行かなくてもよい事にしたのです。

このように、法定地上権は建物所有者にとってはメリットですが、土地所有者にとっては自分の土地を他人に利用させなければならず、大きな負担となります。実際の競売において法定地上権が成立するケースは多くありませんが、法定地上権は非常に強力な権利なので、しっかりと確認しておく必要があります。法定地上権の成立がない場合、物件明細書には「なし」と記載されています。

買受人が負担する他人の権利

買受人に優先する賃借権等の権利がある場合はその内容が記載されています。賃借権の他にも、土地上に高圧線が通過する場合等に設定される地役権や、建物の工事代金が未払いの場合に工務店が有する留置権など、様々なケースで他人の権利を負担する場合があります。買受人が負担する他人の権利が存在しない場合には、物件明細書には「なし」と記載されます。

ここに記載がない占有者に対しては、原則として「引渡命令」を発令してもらえる事になりますが、例外もありますので注意が必要です。

競売においては、引渡命令が認められるかどうかはとても重要です。引渡命令が認められないと、通常の明渡訴訟によって明渡しを求めることになりますが、訴訟には時間もお金もかかるからです。

まず、明渡訴訟を提起するには訴状を作る必要がありますが、訴状の作成は素人には難しいと言えます。また、訴訟を提起してから最初の裁判期日まで1か月くらいの期間が空き、判決を得るまでには更にそこから数か月かかるのが普通です。それに、物件の固定資産税評価額を元に計算した金額の印紙を購入して裁判所に納める必要がありますし、弁護士に依頼すれば弁護士費用も別途かかります。

これに対して引渡命令の場合は、手続きが簡単で迅速に処理してもらえる上に費用も安く済みます。申立書に必要な事項を記載して提出すれば良いだけで、申立書のひな形が裁判所のホームページでも公開されていますので、素人でも簡単に申立てできます。また、裁判所に納める印紙も500円で済みます(他に切手代が多少かかる)し、特に問題がなければ申立てから数日で発令してもらえます。

物件の占有状況

占有者が誰なのか、占有するための権原があるのか等、占有の状況が記載されています。例えば、「本件所有者(又は債務者)が占有している」「〇〇が占有している。同人の賃借権は抵当権に後れる。ただし、代金納付日から6か月間明渡しが猶予される」「〇〇の主張する賃借権は正常なものと認められない」等の記載がされます。占有者に権原が無ければ、原則として引渡命令の発令が可能なので、ここの記載内容から引渡命令が認められそうか否か判断する事になります。

その他買受の参考となる事項

ここには上記以外で買受けの参考となる様々な事項が記載されます。

例えば、マンションの管理費の滞納がある場合、区分所有法により滞納管理費は買受人の負担とされているので、その旨が記載される事があります。この場合、裁判所による調査時点から時間が経過すると、さらに滞納金額が膨らむ可能性があるので、入札の際には改めて管理会社などに金額を確認する必要があります。

また、競売物件が借地上の建物である場合、買受人に賃借権を引き継ぐためには、地主の承諾または裁判所の代諾許可が必要となるので、その旨が記載される事があります。地代の不払い等により地主から建物収去・土地明渡訴訟を提起されている場合は、その旨が記載される事もあり、逆に不払いの地代につき、債権者が代払いをして借地契約を存続させる手当てをしている場合には、その旨の記載がされる事もあります。

他には、競売の対象となる土地の上に売却対象外の建物がある場合、その旨が記載される事があります(法定地上権が成立する場合を除く)。このような場合の土地上の建物は、執行妨害に利用されているケースも多いため注意が必要です。

さらに、接道条件について注意を促す記載がされる事もあります。例えば、「幅員2mの私道に面する」「幅1.8mの路地上敷地を経て公道に接続する」「本件土地は袋地であり、〇〇の土地を通らねばならない」等の記載がされる事があります。このような土地は、通常よりもかなり資産価値が低くなるので注意が必要です。なぜなら、敷地が建築基準法上の道路に2m以上接していないと原則として建築確認が下りず、現在建物が建っていたとしても将来の再建築はできないからです。

現況調査報告書

3点セットの2つ目は現況調査報告書です。現況調査報告書とは、執行官が競売不動産の形状や占有状況などにつき現地調査した結果をまとめた報告書のことです。具体的な記載事項のうち重要なものにつき、これから説明して行きます。

不動産の表示・土地・建物

現況調査報告書では、不動産の地番表示のほか住居表示も確認することが出来ます。なお、不動産の表示は、期間入札の公告書や物件明細書にも記載されますが、これらの書面では地番表示のみの記載となっており、住居表示の記載はありません。

土地については地目が記載されますが、登記簿上の地目ではなく現況の地目が記載される事になっています。土地の形状については、「公図のとおり」「地積測量図のとおり」などと記載されます。また、地積測量図が法務局に備え付けられていない場合は、「その他の事項」の欄にその旨の記載がされる事があります。他には、土地上の目的外建物(競売の対象外の建物)の有無についての記載もあります。

建物については、種類・構造・床面積についての登記簿との相違が記載されます。例えば、登記簿上の床面積と現況との間に相違がある場合、現況の床面積が記載されます。また、付属建物の有無についての記載もあります。付属建物とは、母屋に付属した物置や車庫などのことで、母屋に抵当権が設定されている場合は、その効力が付属建物にも及びます。他には、目的外の土地(競売対象外の敷地)についての記載もあります。

そのほか、建物がマンションの場合は、管理費や修繕積立金の金額・滞納額等が記載されます。

執行官保管の仮処分

現況調査報告書には、執行官保管の仮処分についての記載がされます。これは、競売不動産をめぐり明渡訴訟等が提起されて争われている場合に、占有の移転を禁止する仮処分がなされている事を意味します。例えば、不動産につき明渡訴訟を提起する場合、訴訟をしている間に他人に占有を移転されてしまうと勝訴してもその判決が無意味になってしまうため、予め占有移転を禁止する仮処分を得ておく事があります。

この点、仮処分債権者が競売不動産の所有者である場合は、買受人は仮処分債権者の地位を引き継ぐため、仮処分自体が買受人の負担となるものではありません。例えば、所有者が占有者に対して明渡訴訟を提起した場合、所有者が勝訴すれば占有者は自分の占有を買受人に対しても主張できなくなります。この場合、物件明細書の「その他買受けの参考となる事項」の欄にも仮処分がある旨の記載がされます。

これに対して、仮処分債権者が競売不動産の所有者以外の場合は、買受人が仮処分による負担を引き継ぐ事があります。例えば、賃借人が所有者に対して賃借権に基づく明渡訴訟を提起した場合、所有者が敗訴すれば買受人が賃借権の負担を引き継ぐ事があります。この場合、物件明細書の「買受人が負担することとなる他人の権利」の欄にも仮処分がある旨の記載がされます。

これらの場合、仮処分は売却により当然に失効するものではないので、執行官保管を解かないとその物件を利用する事が出来ません。したがって、どのような争いが前提で仮処分がなされているか確認し、執行官保管が解ける事を確認した上で買受の申し出をするべきです

占有者および占有権原

現況調査報告書には、執行官の調査した占有状況をまとめた内容が記載されます。

買受希望者にとって、その不動産を誰が使っていて、その人がどのような人なのかという点は、最大の関心事であると思われます。占有者について自由に調査する事が難しい買受希望者にとって、執行官による調査結果は貴重な情報源となります

しかし、競売不動産は売却されて代金が納付されるまではその所有者の物ですから、他人に賃貸したりする事は原則として自由です。したがって、調査時点から占有者が変わる事もあります。占有者が頻繁に入れ変わる物件の場合は、明渡しの際に苦労する事があるので、買受けには慎重になった方が無難です

関係人の陳述等

ここには、物件の所有者や占有者などから執行官が聴取した内容が記載されます。占有の状況や占有に至った経緯、雨漏りや床の傾きといった不具合の状況、マンションの管理費の滞納状況など、執行官が聴取する事の出来た様々な内容が記載されます。買受希望者が所有者や占有者などから直接話を聞くことは難しいため、ここに記載された内容は重要な情報と言えます

執行官の意見

ここには、現況調査をした執行官の意見が記載されています。物件の占有状況についての執行官の認識、建物の不具合・汚れ・臭いなどの状況、残置物の有無や状況、リフォームの状況など様々な内容が記載されます。競売物件の場合は、買受希望者が敷地や建物の中に立ち入る事が原則として出来ないので、実際に立ち入り調査をした執行官の意見は貴重な情報となります

評価書

3点セットの3つ目は評価書です。評価書は、裁判所が任命した評価人(通常は不動産鑑定士)が作成する書面で、競売不動産の評価額や評価の過程が記載されます。また、その物件の公法上の規制の内容、接道状況、利用可能な公共交通機関、周辺の環境、ライフライン、土壌汚染の可能性、再建築の可否、建物の仕様・品質・利用状況などについても記載されます。

そして、競売不動産の売却基準価格は、評価書に記載された評価額を元に決定されます。実際には、評価額をそのまま売却基準価格としているケースが多いように思われます。しかし、買い手が付かず何回か売却されている物件の場合、評価書の他に「補充評価書」や「再評価書」が閲覧資料の中にあり、評価額が変わっている事もあるため、最新の資料を確認する必要があります。

買受希望者が評価書を見る場合、評価額の算出過程に注意を払って読み解く必要があります。具体的には競売不動産の減価要因について着目します。減価要因は評価書の後半部分の「評価額の判定」の項目のところに記載されます。

競売の場合、競売市場という特殊性から競売市場修正がなされるのが通常です。競売市場修正率は0.5~0.8くらいの間の係数が用いられており、この数値を基礎となる物件評価額に掛けて競売不動産の評価を算出します。すなわち、競売というだけで通常の50%から80%の価格と評価される訳です。この競売市場修正率は、地域の需給バランス等を考慮して決められるため、管轄裁判所ごとに数値が異なります。

他には、市場性修正、占有減価修正、管理費等の滞納などを係数にしたものを、基礎となる物件価格に掛けて評価額を算出しています。とくに減価が無ければ1.0の係数が用いられますが、減価がある場合には基礎となる物件評価額に0.5とか0.8とかいった係数を掛けて評価額が算出されます。例えば、事故物件・建蔽率、容積率オーバー・無道路地・農地等で市場では売りづらい物件の場合は市場性修正0.2、買受人が対抗できない占有者が存在する場合は占有減価修正0.5、管理費の滞納がある場合は0.8などと言った具合に、物件ごとの状況や特性に応じて係数を決めて評価額を算出します。

このように、減価要因に着目することで、物件が抱えている問題やリスクを把握する事が出来ますので、買受けの判断の参考にすることが出来ます。

また、評価書における評価の場合、減価する前の基礎となる評価額が、通常の不動産取引における市場価格とズレている場合も珍しくありません。つまり、競売における売却基準価格は相場価格よりも安く設定されるのですが、その安さの具合において物件ごとにかなりバラツキがあるという事になります。

その理由として、評価時点から入札までに期間が空き市場価格が変動する可能性があること、評価人によって評価額に個人差が生じること等の事情もありますが、一番大きな理由は、評価書における評価手法と現実の取引相場との間の乖離にあると考えられます。

例えば、評価書における土地の評価額は公示地等の価格を根拠に算出されます。そのため、評価対象の土地と出来るだけ条件の近い公示地等と比較のうえ評価額を算出する事になりますが、公示地等の数には限りがありますので、評価の算出に都合の良い公示地等が見つかるとは限りません。また、公示地等の価格が実際の相場価格とズレていることもよくあります。それに、通常の不動産取引で土地を査定する場合、公示地等を参考にする事もありますが、むしろ近隣での成約事例や売出事例などを参考に価格を決める事が多いと言えます。

他には、評価書におけるマンションの評価額は、土地と建物とで別々に評価する手法が用いられるため、高層マンションなどの場合は占有面積に比して土地の持分面積が少なくなる事があり、その場合は土地の評価額が低くなるため、マンション全体の評価額が市場価格よりかなり安くなる事があります。しかし、現実の不動産取引における査定では、居住用マンションであれば、近隣の成約事例や売出事例を参考に価格を決める事がほとんどなので、土地の持分面積はマンション価格にあまり影響しません。

このような事から、競売における評価と現実の相場との間にズレが生じますので、評価書の評価額や売却基準価格は参考程度に考える方が無難であり、自ら市場価格を調査したうえで入札の判断をする事が大切だと言えます。

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